猫はサイエンスがお好き―『真夜中に猫は科学する』

 真夜中に行われる猫の集会と言えば、ミュージカル「CATS」が思い浮かびます。舞台だけではなく客席にも自由自在に登場する猫たちが主役で、人間の登場はありませんが、舞台の存在そのものから猫という生き物に対する人間の特別な愛情(ちょっと片思いっぽい)が感じられます。

 ところで、猫たちは普段の集会ではなにをしているのでしょうか。夜な夜などこかで集会をしている猫たちは、なんと科学講座を開講していた…というのが『真夜中に猫は科学する』というサイエンス猫本で明らかになりました。本書の性格は意外に複雑で、小説でありながら免疫や遺伝についての一般向けのお勉強本となっています。構成と登場人猫物も慣れるまでは戸惑います。語り手の「わたし」及び「先生」は人間で、夕方に科学についてお喋りをします。そしてその夜に猫たちの集会で、猫のみ参加の科学講座が開かれます。翌朝、また人間2名のお喋りがあり…というのがひとつの章の構成です。場合によってはここに、猫の座談会形式の補講がつきます。語り手である「わたし」の名前がキミであるため二人称かと勘違いしたり、登場猫一覧は巻頭にあっても、人間の登場人物のそれはなかったり、猫の品種名が特に注釈なく登場するため、読み始めは戸惑いもありました。

 しかし、魅力的な猫たちの科学講座に参加しているうちに、それらは全く気にならなくなります。一般向けのサイエンス本は数多く存在していますが、本書の特徴のひとつは個性の強い猫がお喋りをしながら勉強をしていくということです。

猫たちの科学講座(アカデミー)の顧問役は「教授」と呼ばれる知的だけれどもちょっと乙女心には鈍感な、こげ茶のふさふさ毛の猫エクレア。幼馴染でワイルドな雰囲気なのに名前は可愛いキララ。喧嘩ばかりしている兄弟コタロウとレオ。勘違いと聞き間違いの多いサスケ。その他大勢の猫たちは個性的で、彼らのお喋りはちょうど、学校の同級生たちのようです。級友たちが、授業中に先生の説明に合いの手を入れたり、とぼけた質問をしたりした結果どんどんと授業が盛り上がり、ただひとりで教科書を読むよりもずっと内容が頭にはいってきました。「そういえばA君が招き猫は三毛猫だけれどもオスみたいな顔をしていると、遺伝の法則の授業の時に言ってたっけ」なんてお喋りの思い出が、授業内容の記憶のトリガーとなっていることもあります。にぎやかな猫たちの集会は学校の授業の「脱線」(教科書から少し外れた先生の話の方が、なぜか強く印象に残っているということがありませんか)のようです。

 生ワクチンと不活化ワクチンの違いや(ヒトの風疹ワクチンはウサギの細胞で増やすことでヒトに感染しにくいタイプになるというのはおもしろいです!)免疫の暴走、ES細胞とiPS細胞について、よく耳にするけれどもごっちゃになりやすい遺伝子、ゲノム、DNA、ヌクレオチドについての整理など、猫たちのお喋りを楽しんでいるうちに学べるのが嬉しいです。

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 猫たち皆が物分かりの良いというわけではなく、なかには読んでいる私と同じように、理解に時間がかかる猫もいるので説明図や補講、身近な例などでわかりやすく講義が行われるのもありがたいです。「インフルエンザ菌とインフルエンザウイルスの違いは?」という問いに「えーと、名前が違う?」と思いながらページをめくったら、猫のサスケが元気よく「えっとー。名前が違います」と言っていたのには思わず笑ってしまいました。

 読み終わる頃には次回のエクレア教授の講義で取り上げてほしい話題や疑問がいくつも頭に浮かんできており、猫たちとのお別れをさびしく感じます。どこかでまた会える機会を待っています。

 

(猫の画像は本からのイメージです)

 

真夜中に猫は科学する エクレア教授の語る遺伝や免疫のふしぎ

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