読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

子どもを幸せにするひとつの手だて―『子どもと本』

『子どもと本』を読みました。

子どもと本 (岩波新書)

子どもと本 (岩波新書)

 

 帯には「『子どもの図書館』(石井桃子著)刊行から半世紀……「その後」は?」とあります。石井桃子著『子どもの図書館』は、日本の図書館事情の遅れを痛感した児童文学作家の石井氏が1958年に自宅で開設した「かつら文庫」の様子を軸に、子供と本との関わりが書かれています。当時、全国に公共図書館は七百余り、子供へのサービスの必要性は認識されておらず児童室もない、司書は専門職とは認めらておらず入れ替わりも多かった。公共図書館の充実・発展に希望を託し締めくくられた『子供の図書館』刊行から半世紀がたち、現在の子供と本はどのような状態にあるかを本書ではとりあげています。

とは言うものの、目次を見ればわかるのですが、子供と本を取り囲む状況について書かれているのは五章です。まずは一章~四章で、子供と本との関係性がどのように生まれて、育つのかに大きくページが割かれています。著者は財団法人東京子ども図書館を設立、以後理事長として活躍する松岡氏。

目次は以下の通り。

一章 子どもと本とわたし
 幼い日に本のたのしみを知ったのが、幸せのはじまりでした。
二章 子どもと本との出会いを助ける
 暮らしのなかに本があること、おとなが読んでやること、
 子どもを本好きにするのに、これ以外の、そして、
 これ以上の手だてはありません。
三章 昔話のもっている魔法の力
 昔話は、今でも、子どもがこころの奥深くで
 求めているものを、子どもによくわかる形でさし出しています。
四章 本を選ぶことの大切さとむつかしさ
 だれかのために本を選ぶときに働くのは基本的には
 親切心―多少おせっかいのまじった愛情―だと思います。
五章 子どもの読書を育てるために
 子どもたちに、豊かで、質のよい読書を保障するには、
 社会が共同して、そのための仕組みをつくり、支えていくことが必要です。
あとがき

 

 子供と本に関して多くの人が気になるのは「どうすれば子供が本を好きになってくれるか」「どんな本を子供に与えればよいのか」ということだと思います。私は自分自身が本が苦手な子供だったくせに、自分の子供には本好きになってほしいと思ってしまう。そう思いながらも、読んだ本の冊数と共に幸福が積みあがる訳ではないことを知っています。子供が本を読むことを期待するのは自身の下心ではと考える事もありますし、子供に本を選ぶ際には自分の好みの押し付けになるのではと怯えています。でも、本を読む子供の姿をみると、なんとも言えないあたたかい気持ちになる。

本書ではそういったフラフラとした疑問と怯えにも、学問的研究結果と、著者が子供と本と関わり続けた実際の経験から真摯に答えています。

例えば二章では赤ちゃんに本を読んであげる方がいいのか、読み聞かせの適齢期はいつかという子供の年齢月齢と本との関わりも誠実にひとつひとつ取り上げている。

三章では昔話の効用に関して大きく取り上げられており、おもしろかったです。自分自身も昔話を楽しんでいたし、いまもよく覚えていますが、しかしながら昔話は残酷ですし、ご都合主義ですし、王様やお姫様満載の階級社会が多いですし、非科学的です。こんなものを子供に馬の首をごろりと転がすように与えていいものか。と、いう心配性な大人の疑問にも、心理学による昔話研究と実践との両輪から答えてくれます。具体的に多くの絵本と児童書の名前が挙がるのも理解しやすい。

自分が子供の時にも既にお馴染みとなっていた、古い本を子供に読むときに、ちょっと躊躇していたんですよね。今はこんな言い回しはしないぞとか、こんな形の車は走っていないよね、とか。そういった昔の本に関しても以下のように書かれている。

 子どもの本の場合、新しい本ーー出版されたばかりの本ーーを追いかける必要はまったくありません。子ども自体が"新しい"のです。たとえ百年前に出版された本であっても、その子が初めて出会えば、それは、その子にとって"新しい"本なのですから。そして、読みつがれたという点からいえば、古ければ古いほど、大勢の子どもたちのテストに耐えてきた"つわもの"といえるのです。

「子ども自体が新しい」という言葉にはっとしました。そういえば、そうだよね。

 

子供の減少もあり、数は減ってきていますが、日本には現在でも全国に3000から4000の私設の「子ども文庫」があります。公共図書館学校図書館以外で子供に読書の場を提供しています。多くの場合、子供と本が好きな人が労を惜しまず、無私の働きとして場を用意しています。名もなき大人たちの「子供と本が好き」という思いに子供は守られ、成長していく。そしてその大人を支える活動のエネルギー源は子供である。子供と大人の本を介した幸福な循環と課題に関しては、実際に本書にあたってください。

 

本書は全体に非常に平易に書かれており、内容の理解ができないということはないはずです。今現在まさに子供と本との関わりに悩んでいる忙しくて若いお父さんお母さんにもおすすめです。

子供と本、そして迷いながらも子供と本に関わろうとする大人への、信頼と誠意がつまった本です。読み終えた後、もう一度、本書の一番最初を読み返して著者の冒頭のあいさつを読んで、なんだか胸にこみ上げてくるものがありました。

 子どもと本。こうふたつのことばを並べて書いただけで、じんわりと幸せな気持ちになります。このふたつが、わたしのいちばん好きな、そして、いちばん大切に思うものだからです。 

 

 

広告を非表示にする