ドナ・ジョー・ナポリ『バウンドー纏足』

 『バウンドー纏足』を読みました。日本語で紹介されているドナ・ジョーナポリの本はこれで全て読んだでしょうか。

バウンド―纏足 (YA Dark)

バウンド―纏足 (YA Dark)

 

  ドナ・ジョーナポリは誰もが知っている童話や昔話の大胆なアレンジを得意としており、本作は『シンデレラ』の本歌取りの物語。もともと「シンデレラ」の原形は中国が起源と言われていますが、ナポリ版シンデレラは明代初代皇帝 洪武帝の中国北部の寒村。シンデレラとなるのは両親を亡くし、継母と義姉と共に暮らす少女シンシン。絵と詩と書の三芸を習い、向学心も強い女の子であるシンシンは、しかし今は家の仕事を一手に引き受け忙しく働く毎日。遊ぶ暇も習いごとをする時間もないが、泉に住む鯉に亡き母を重ねて心を和ませる日々。結婚相手を見つけようと纏足を始めた義姉は動けず、纏足によって小さな足となった継母もまた一家の大黒柱とはなれない。
 「シンデレラ」の物語なので、大筋は誰もが知っている話となっています。だからこそ安心して読めるのですが、少女の自立の物語に少しの冒険譚もあり、そして所々に陰鬱な人間のリアルな毒が混ぜられている。ナポリの作品はどれもこの毒気が鮮やかです。誰もが持つコンプレックスやプライド、偽善、そしてそれに対する自分自身への言い訳を心理描写として物語に重ねていく。だからこそ勧善懲悪のお話とはならず、主人公である人物ですら欠点のあるリアルな人物となっている。

 シンデレラの舞踏会はどうアレンジされているのか、カボチャの馬車は登場するのか、ガラスの靴はどんな形状なのか、そしてシンデレラを探す王子様とはどんなやりとりがあるのか。こういった変形部分も気になって一気に読んでしまう。

 ドナ・ジョーナポリの大胆な昔話の書きかえは他の作品でもおもしろかった。
ナポリ版「ヘンゼルとグレーテル」である『逃れの森の魔女』では我が子を愛する女魔術師が主人公。産婆であり治療師である彼女は、あるたった一度の過ちから悪魔の罠にかかり、追い詰められた末に孤独な森の中での生活を余儀なくされている。彼女の菓子で飾られている家に姉弟が迷い込みます。なぜ魔女は魔女となったのか、お菓子の家はなぜ建てられたのか、魔女とグレーテルは最後になにを語り合えたのか。魔女側から見た「ヘンゼルとグレーテル」は、哀しいめでたしめでたしで終わります。
 『クレイジー・ジャック』は「ジャックと豆の木」のアレンジ。農夫の父と花を愛する母、大好きなお隣の少女フローラと彼女の両親、そしてもうすぐ産まれるフローラの弟。少年ジャックを取り巻く素朴で幸福な環境は干ばつをきっかけに暗転。豆の木、巨人、金の卵を産む鶏、金の入った壺、歌う竪琴という要素は全てそろっているが、それらもただの魔法の産物ではありません。焦点が当たっているのは、なぜ少年は豆の木を登ったか。ジャックが精神に変調をきたしていくくだりは、あっけらかんと明るい子供向け童話の姿とは全く異なっている。
 『わたしの美しい娘ーラプンツェル』は副題通り「ラプンツェル」を元にした、塔に閉じ込められた娘と、その母親の物語。子供に恵まれなかった女が、とある方法で娘を手に入れ惜しみなく愛するのですが、その愛故に娘を閉じ込めることになる。古典童話に話の筋はそのままに、現代的なリアリティを肉付けされて重みのある母と娘の話となっています。
 中国版シンデレラ『バウンドー纏足』と同様に、意表を突いた背景設定で描かれるのは「美女と野獣」の舞台を16世紀サファビー朝ペルシャにした『野獣の薔薇園』です。ペルシャ王宮で暮らすオラスミンは、薔薇と庭園を愛し、イスラムの教えを大切にし、殺生を厭う誇り高き王子様ですが、駱駝の恨みと精霊の呪いによりライオンの姿に変えられてしまう。人間の誇りと理性と、ライオンの本能との間で苦しみながらも必死の放浪をすることとなる。ただ獣に変わるだけならばよかったのに、人間としての強いプライドと理性、ライオンとしての生きる喜びも抱え、時に滑稽なくらいに希望と絶望の間を跳ね回ることになる。期待と妄想で先走る人間の浅知恵を、現実は何度も潰していきます。人間の女性に愛されれば呪いは解けるが、しかしただのライオンなので言葉を話すことはできない。美しい城も召使いもご馳走もダンスパーティーもない、魔法のなく呪いだけがある世界で、美女と野獣は出会います。

 どの作品も読者の都合のよい、馴染みのある展開を求める気持ちを見事に裏切り、しかし元の作品からは軸足をずらしません。馴染みある風景から別の局面へ一時連れ出してくれる現代のおとぎ話です。

逃れの森の魔女

逃れの森の魔女

 
わたしの美しい娘―ラプンツェル

わたしの美しい娘―ラプンツェル

 
野獣の薔薇園 (ファンタスティック・ラブ・シリーズ)

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