知性についての新しい姿を描くー『教養としての認知科学』

 『教養としての認知科学』を読みました。いますぐ人に話したくなる内容もりだくさんの本でした。タイトルからも窺い知ることが出来る通り認知科学の入門書であり、青学・東大の人気講義を書籍化したものです。

教養としての認知科学

教養としての認知科学

 

  認知科学の特徴、「計算」と「表象」という重要概念の解説から始まり、入門テキストらしく広範囲な学際分野の入口として広く分かり易く認知科学の基礎的知見を紹介してくれる。そしてそれと同時に本書は「知性についての新しい姿を描くこと」を目標としており、私たちが一般的に知性の働きとして捉えていた認知処理に対して議論していく。心理学、哲学、コンピュータ科学、行動経済学と多様な議論の中で見えてくる私たちの認知能力については、ただただ感嘆。認知科学ってナンデスカという状態で読み始めたので、非常に難しい本なのではと身構えていましたが(事実、難しい話をしているんです)流石の人気講義です。「どうしよう…難しいはずなのに…言ってること全部わかる…」と戸惑いさえ覚えます。

 こういった本はオモシロ実験の話を期待して読む方もいらっしゃるかと。期待には十分にこたえてくれています。たとえば「4枚カード問題」の事例。有名な問題なので耳にしたことがあるかもしれません。

問題:四枚のカードがある。このカードの片面には数字が、もう片面には平仮名、あるいは片仮名が書かれている。さて、このカードは「片面が奇数ならばその裏は平仮名」となるように作られているという。本当にそうなっているかを調べるためには、どのカードを裏返してみる必要があるか。何枚裏返してもかまわないが、必要最小限の枚数にすること。

[3][8][う][キ]

問題を読んで、最初に選ぼうとしたカードは「3」と「う」なのではないでしょうか。答えは「3」と「キ」です。最初のカードはピコンとすぐに閃くと思いますが、次のカードに関しては正答率が低い。論理学では初歩中の初歩であるルールを使って解く問題でありながら間違えてしまう。人間は必ずしも論理学的ルールに従って推論を行っているわけではなく、人間の思考のクセは合理性や論理性からは離れている。これだけならばオモシロ実験の紹介なのですが、次の変形問題が登場する。

問題アゲイン:あなたはある国の空港で入国管理を行う立場にある。この国に入国するには、コレラの予防接種が必要となっている。空港利用者はカードを持っており、カードの表面には、その所持者が入国希望か、一時立ち寄りかが記され、裏面にはその人が受けた予防接種のリストが記されている。今、以下のカードがあなたの前に置かれている。あなたがチェックしなければならないのはどのカードだろう。

赤痢、疫痢][コレラ赤痢][一時立ち寄り][入国]

問題の解き方は最初の4枚カードと同じです。難しいことを一切考えずに選んだカードが「入国」と「赤痢、疫痢」となる人は多く、そしてそれは正解。最初の4枚カード問題よりも正答率は高くなる。なぜでしょうか。この問題が「許可」の文脈で提示されたからだという研究が紹介されています。詳しくは本書をあたって頂きたいのですが、さらにもう一歩、社会契約としての推論課題も紹介されている。「フンフン」とか「ホヘー」とか思わず口から驚きの声が出てしまうと思いますよ。